テルミンを生み出したソ連で
独自に進化を遂げていた電子音楽
共産趣味テクノby西側陣営
ロシアン・ハードベースbyスラヴ不良ゴプニク
メロディヤ認定スポーツテクノ継承者インタビュー等
初版から32ページ増の永久保存版!
■ガガーリンも宇宙で聴いたソ連電子音楽の元祖、ヴィチスラーフ・ミシェーリン
■ソ連の共産テクノの起源となるラトビアの宅録集団、ゼルテニエ・パストニエキ
■ 2 トラック録音機だけで名作を作り上げた人力テクノ二人組、チルナフスキー=マテツキー
■小国ラトビア出身ながら、売上2000万枚を超えるスペースディスコ、ゾディアック
■Kraftwerkをレゲエカヴァーし、イラク公演まで果たしたエストニアのTornaado
■強制労働を課された事もある自称火星出身ソ連版Lady Gaga、ジャンナ・アグザラワ
■ YMO をサンプリング(パクった?)した閉鎖都市の反乱者、Brothers In Mind
■「セックスのための音楽」を発表した「化粧品研究所」、ニー・コスメチキ
■突然テクノディスコを発表したリトアニア音楽院のクラシック音楽理論教授テイスティス・マカチナス
■ラヴソングを英語のみで歌う旧スターリングラード出身のアイドルデュオSlow Motion
●ロシア・アヴァンギャルド風ジャケット展や、ペレストロイカ期に出版
されたモスクワのガイドブック再訪など共産趣味コラム類も多数!!
2■はじめに~共産テクノとは?
4■目次
6■凡例
6■地図
7■主要な出来事
8■ソビエト社会主義共和国連邦
9■ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国
10■ヴィチスラーフ・ミシェーリン Вячеслав Мещерин
ガガーリンも宇宙で聴いたソ連電子音楽のパイオニア
16■コーラ・ベルドィ Кола Бельды
ハバロフスク近郊ナナイ族の口琴テクノ
18■ツェントル Центр
バンド・リーダーは米ソ友好ソングをリリース
21■チルナフスキー=マテツキー Чернавский - Матецкий
2 トラック録音機だけで名作を作り上げた人力テクノ二人組
30■フォルム Форум
名曲も盗作疑惑曲もあるソ連テクノポップの先駆者
38■《コラム1》盗作疑惑調査委員会
怪しいカヴァー?盗作?そこから見えるソ連の黒歴史
41■アレクセイ・ヴィシュニャ Алексей Вишня
早すぎたトランスジェンダー? 早すぎたチルウェイヴ
47■ストランヌィ・イーグリィ Странные Игры
アメリカで初めて公式にリリースされた元祖共産2 トーン
54■ジャンナ・アグザラワ Жанна Агузарова
逮捕歴あり、火星出身と言い張るソ連版Lady Gaga
57■ラジオノフ& チハミロフ Родионов и Тихомиров
ソ連スポーツ委員会の推奨の「スポーツテクノ」
61■ラジオノフ&チハミロフにモスクワでインタビュー
エアロビクス、ブレイクダンス、スター・ウォーズに触発されたMSX ミュージック
74■アリヤーンス Альянс
モスクワ版Duran Duran、共産ナウロマンティック!
76■Brothers in Mind(Братья По Разуму)
YMO をサンプリング(パクった?)した閉鎖都市の反乱者
78■メトロ Метро
カシオトーンを駆使したローファイ共産テクノ
80■ダヴィット・トゥマーナフ Давид Тухманов
ソ連のTrevor Horn ?モダンポップな共産テクノ人気作曲家
83■タチアナ・アンツィフェロヴァ Татьяна Анциферова
歌手に育ててくれた年上音楽家の若妻となり、共産テクノアイドルへ
85■エメラルドの都の魔法使い Волшебник Изумрудного Города
おとぎ話風のバンド名なのに、ニューウェイヴ・レゲエ
87■ニコライ・コペルニク Николай Коперник
妖しいオーラの自称「ニューロマンティックスの真のシンボル」
89■グリゴリー・グラトコフ Григорий Гладков
子供ディスコ・シリーズを放ったギネスブック記録保持者
91■メガポリス Мегаполис
東ドイツで交換留学生だったエンジニアによるロシア詩テクノポップ
93■《コラム2》ソ連へのノスタルジア
ソ連時代の古いガイドブックを使って、モスクワを訪ねてみた
102■New Composers Новые Композиторы
Zappa が認めて、Eno がコラボしたソ連製Kraftwerk
106■ビオコンストルクトル Биоконструктор
髪型やファッションまで、なりきりDepeche Mode
110■ニー・コスメチキ НИИ Косметики
「セックスのための音楽」を発表した「化粧品研究所」
113■ウラジミール・プリスニコーフ Владимир Пресняков
父は家畜をテーマにしたテクノ歌謡をプロデュース、息子はイケメン系アイドル
116■ザクルィタヤ・プリドプリヤーティ Закрытое Предприятие
「閉業」を意味するシベリア発ダークウェイヴ、仲間は謎の死
118■アルガニーチスカヤ・リェヂ Органическая Леди
モンゴルに生まれ、アラサーでデビューしたオーガニックレディー
120■Slow Motion
大祖国戦争激戦地、旧スターリングラード出身なのに、アンチ・ロシア語デュオ
122■《コラム3》テレビ・映画から見る共産テクノ
テレビドラマ『エイティーズ』& 映画『エレクトロモスクワ』
126■ウクライナ・ソビエト社会主義共和国
127■ディスプレイ Дисплей
ソ連初のテクノポップという人もいる「ロボット=スーパーマン」でテレビ出演
129■Ivan Samshit
「Shit(クソ)」なのにロマンティックなテクノ・トリオ
132■ルーシャ&ナターシャ Руся & Наташа
姉はマレットヘアーのテクノアイドル、妹はエロスな肉体派熟女
137■ユーリイ・ブチマ Юрий Бучма
「チェルノブイリの苦痛」を描いた画家そして電子音楽家
139■イリーナ・ビリク Ирина Билык
クリントン元大統領の前で歌ったウクライナの歌姫
141■《コラム4》共産テクノの探し方
キリル文字入力から有力サイト情報まで
143■白ロシア・ソビエト社会主義共和国
144■ヴェラスィ Верасы
白ロシアの歌謡楽団がテクノポップに突然変異
146■カザフ・ソビエト社会主義共和国
147■アルマータ Алмата
後に英国チャートで健闘したジャズロック由来のテクノバンド
150■エストニア・ソビエト社会主義共和国
151■トルナード Tornaado
Kraftwerk をレゲエ・カヴァーしたマリオとルイージ集団
155■Radar
キューバ、西アフリカにまで遠征、ファンキーレゲエの名曲を残す
157■マハヴォック Mahavok
バックバンド上がりの苦労人、ヘッドバンドが80 年代なエレクトロニック・フュージョン
159■《コラム5》ロシア・アヴァンギャルド・ジャケット展
リシツキー、ロトチェンコ、ステンベルク兄弟の遺伝子!
189■ラトビア・ソビエト社会主義共和国
190■ゾディアック Зодиак
小国ラトビア出身ながら、売上2,000 万枚を突破したスペースディスコ
192■ゼルテニエ・パストニエキ Dzeltenie Pastnieki
ソ連の共産テクノの起源(本命!)となるラトビアの宅録集団
200■ユンプラヴァ Jumprava
歴代メンバー中4 人の名前がアイガルスだったハンマービート大好きバンド
202■リトアニア・ソビエト社会主義共和国
203■テイスティス・マカチナス Teisutis Makačinas
リトアニア音楽院のクラシック音楽理論教授が突然テクノディスコを発表
205■アルゴ Argo
試作機シンセサイザー「Vilinus-5」を実験台にしたスペースディスコ
208■フォーイェ Foje
30 年後にディープハウス化されるも全く違和感なし
210■《コラム6》100 枚のソ連ロック・テープアルバム
ソ連でインディーズとして機能したテープ文化
216■『100 枚のソ連ロック・テープアルバム』からの共産テクノ系セレクション
218■《番外編》JOYTOY
日本にもあった反米・親露路線の共産テクノ?
220■ 共産テクノWest支部 ゴルビーは共産テクノWestのスーパースター!
230 ■アルゼンチンのEl Club de la Computadoraにインタビュー メロディヤも認めたスポーツテクノの真の継承者
239 ■ロシアン・ハードベースとゴプニクの世界 ネットミームが盛り上げたスラヴ的不良サブカルチャー現象
252■あとがき
254■参考文献
本書は『共産テクノ ソ連編』の〈増補改訂版〉ある。
筆者が初めて共産テクノという言葉を使ったのは、2014年5月1日、All Aboutテクノポップでの記事「共産テクノ序章~共産テクノとは何ぞや?」だ。知る限りにおいて、この言葉を過去に使った人はいない。というか、そもそもそんな発想をする人はあまりいなかったのだろう。
先ずは「共産テクノ」の「共産」の部分を定義したい。コミュニズム(共産主義)という用語は19世紀から成立していたが、第二次世界大戦後、世界はイデオロギーによって大きく二分された。一つは米国を中心とした資本主義陣営(西側)。もう一つはソ連を中心とした共産主義陣営(東側)。その二陣営が対立していた状況は冷戦と呼ばれていた。チャーチルは、東側の閉鎖性を批判して、東西の境界線を鉄のカーテンと呼んだ。一般的にはベルリンの壁が崩壊し、ゴルバチョフとブッシュによる冷戦終結宣言のあった1989年を冷戦の終わりとしているが、「共産テクノ」ではソ連が消滅した1991年までをその期間とする。つまり、1991年以前から共産主義陣営で活動していたアーティストであることが一つの判定基準となる。あくまでも時代背景であり、アーティストが共産主義者であったとか、イデオロギー的な意味はない。同時に本書では、共産テクノ系アーティストがソ連崩壊後どのような活動をしてきたかという点にも言及している。
次は「共産テクノ」の「テクノ」の部分。ここで言う「テクノ」とはデトロイトテクノから発祥するクラブミュージックではなく、70年代終盤に発生したテクノポップ及びほぼ同時期に勃興したニューウェイヴ系の音楽を指す。それなら、共産テクノポップとか共産ニューウェイヴと言うべきかもしれないが、「共産テクノ」という語感がシンプルで、単に気に入ったのだ。もちろん、クラブミュージックとしてのテクノもテクノポップに影響されているわけで、全く関連性がないわけではない。ゼロ年代におけるエレクトロは、テクノ、ハウス、テクノポップ(またはエレクトロポップ)を吸収している。また、テクノポップを電子音楽の一つの発展系と考えれば、シンセサイザーを中心とした電子楽器を駆使した音楽はルーツとしての意味を持つ。テクノポップ~ニューウェイヴが備えた雑食性から、ディスコ、レゲエ、ラップ、歌謡曲等にもその守備範囲は及んでいく。本書でも「共産ディスコ」(「Red Disco」という呼称もある)や「共産レゲエ」等という呼び名も使っている。
すなわち「共産テクノ」とは、「冷戦時代にソ連を中心とした共産主義陣営で作られていたテクノポップ~ニューウェイヴ系の音楽」と本書では定義する。構想段階では、この定義に従って、ソ連と東欧諸国を中心とした全ての共産主義陣営を地域として網羅する計画であった。しかしながら、ソ連だけで想定した以上の質と数の共産テクノ系アーティストが発掘され、第1弾は「ソ連編」としてソ連に絞ることにした。嬉しい誤算である。続編として東ドイツ、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーの共産テクノを網羅した『共産テクノ 東欧編』も2018年に出版したので、こちらもぜひ読んで欲しい。
本書は「共産趣味インターナショナル」シリーズの一つであるが故、共産趣味的好奇心で読んでもらって一向に構わない。同時にソ連という未知なる国家における特定のジャンルに的を絞った音楽研究本でもある。筆者の場合、まだ十分発掘されていない領域であることが一番の動機だ。
現在まで25年近くテクノポップ及びその系譜上にある音楽を調べ続けているが、私たちが普通に知っているテクノポップとは、日本、英国、ドイツ、米国等のアーティストによるものである。ほとんどの西側諸国で80年代に活動したテクノポップ~ニューウェイヴと呼べるアーティストが見つかっており、多くはディスクガイド本やネット上でも紹介されている。しかしながら、鉄のカーテンに阻まれ、言語のハードルも高い東側諸国のテクノポップ系アーティストを紹介した媒体は日本語では存在せず、海外でも書籍としてまとめられたものはない。西側諸国に留まらず、そのムーヴメントは鉄のカーテンを超えて東側諸国にも多大な影響を与えていたことを本書は解明しようと試みた。
2016年に出版された初版の『共産テクノ ソ連編』はおかげさまで完売した。Amazonで中古本は1万円近い価格で取引されている。今回、〈増補改訂版〉として新たに三つのコンテンツを書き下ろした。一つ目は、現在進行形の「ロシアン・ハードベース」である。時代的に共産テクノの定義からは外れるが、ソ連時代の文化背景も引きずっている珍しくロシアの名前が入っている音楽ジャンルだ。二つ目は、「共産テクノWest」。こちらは地域的に共産テクノの定義から外れるが、西側から見たソ連を題材にしたテクノポップ~ニューウェイヴ系(イタロディスコ~ニュービートも多い)の作品を集めてみた。三つ目は「El Club de la Computadoraへのインタビュー」。共産趣味者的センスで、ソ連時代のスポーツテクノを現代に再現したアルゼンチンのユニットだ。
本書では、ソ連内の共和国ごとにアーティスト(グループを含む)をピックアップして章を構成した。各章では、共産テクノの全体像をつかむべく、対象アーティストだけでなく、他の派生するアーティスト(プロデュース、楽曲提供、コラボを含む)や彼らがいた文化的背景についても記述した。
さあ、これより未知なる「共産テクノ」の世界へタイムスリップ!