人生100年時代、“老いを超える”表現者たちの創造力‼
「超老芸術」とは著者の造語で、「老いを超える」という字のとおり、高齢になってから、または高齢になってもなお、精力的に表現活動をおこなっている人たちのことである。
本書は厳選した25名の超老芸術家の作品とインタビューをオールカラーで収録。長い人生の中で成功だけでなく身近な人の死、貧困、災害などさまざまな喪失体験も重ねながら、それらを表現へと昇華する超老芸術家たちはどういった人生を歩み、なぜその表現に至ったのか。
日本で唯一の「アウトサイダーキュレーター」である著者が、人生100年時代に長く楽しく生きるヒントを彼らのなかに探る。
【はじめに(一部抜粋)】
退職してから巨大な海老や蟹などが街を襲う様子を描き始めた稲田泰樹さんや拾い集めた流木を加工して奇妙な生き物をつくっている上林比東三さん、そして無数の折り紙を使って大型動物などを夫婦で制作し続けている国谷和成・みよ子さん夫妻など、本書で取り上げているのは「超老芸術」と呼ぶ独自の芸術表現だ。
そんな言葉は聞いたことがないと思うのも当然だろう。「超老芸術」は僕がつくった造語で、「老いを超える」という文字の通り、高齢になってから、または高齢になってもなお、精力的に表現活動をおこなっている人たちのことを、そう呼んでいる。いずれも専門的に芸術を学んでこなかった人たちばかりで、彼ら彼女たちは独学でユニークな創作を続けている。
そもそも僕らにとって「老いること」は当たり前の出来事のはずだった。ほんらい老境に達することは人生の偉業であるし、周囲の人々から祝福されるべきことだった。
ところが、現代において「老い」は極端に避けるべきこととして認識されている。誰もができるだけ若々しくあろうと日々努力し、いつからか老いは隠され、忌み嫌われるようになった。
でも、安心してほしい。そうした世間一般が抱いている高齢者のイメージを軽々と覆している人たちのことを僕は知っている。それがこれから紹介する「超老芸術家」と呼ぶ人たちだ。常識やルールに縛られることなく続けられる彼ら彼女たちの独創的な表現に、僕はいつも驚かされてしまう。そして、お話を伺うと皆一様に「良い人生だった」と断言してくれるのだ。これ以上に僕らの背中を後押ししてくれるものはないだろう。いったい超老芸術家の人たちは、これまでどんな人生を歩んできて、どうしてそのような表現を始めたのだろうか。今後の人生を楽しく生きるヒントを求めて、さぁページをめくってみよう。
【目次】
はじめに
【1950年代生まれ】
人生を楽しむ術=山下弘明
愛しき石よ=小八重政弘
あふれんばかりの喜び=杉村聡
スクラップアンドビルドの創造主=堀江日出男
たったひとりのパラダイス=松下勤
彼方からの宿題=上林比東三
紫煙の匂いが残る部屋の中で=半田和夫
空飛ぶロマン=沖井誠
【1940年代生まれ】
労働の生産点から生まれる絵=ガタロ
危機を描く俯瞰図=稲田泰樹
ハローマイハウス=大谷和夫
枯れない盆栽=玉城秀一
自己救済としての表現=本田照男
二人三脚の折り紙細工=国谷和成・みよ子
自分のために描く日々=田口Boss
なんぞしなあかん=土屋修
記憶を綴る紙芝居=田中利夫
シャレとユーモアの理想郷=中條狭槌
【1930年代生まれ】
みちのくガリバーランド=一戸清一
ハリボテの「城」=磯野健一
憧れに囲まれた暮らし=正角稔
「死んだふり」の流儀=林田麗一
目一杯の風を浴びて=今井豊一
【1920年代生まれ】
肉体に宿る美の発見者=河合良介
ベッドの下の宝物=浅原きよゑ
レジリエンスとしての表現
初出一覧
【著者】
櫛野展正|Nobumasa Kushino
1976年、広島生まれ。
2000年より知的障害者福祉施設職員として働きながら、広島県福山鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」でキュレーターを担当。2016年、アウトサイダー・アート専門スペース「クシノテラス」開設のため独立。
未だ評価の定まっていない表現者を探し求め、取材を続けている。2021年からは「アーツカウンシルしずおか」チーフプログラム・ディレクターに就任。総務省主催「令和3年度ふるさとづくり大賞」にて総務大臣賞受賞。