鬼畜米英漫画全集 著:高井ホアン  戦時下の反アメリカ・イギリス的表象 風刺画で知る世界巻次:第一巻の画像
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ISBN:978-4-908468-71-1

出版社:  パブリブ 

著者:高井ホアン

出版年:2023年2月

版型:四六判:480ページ

定価:2900円(税別)


※こちらは新本での取扱になります。


鬼畜米英漫画全集 著:高井ホアン  戦時下の反アメリカ・イギリス的表象 風刺画で知る世界巻次:第一巻

商品説明

紹介

憧れていたのに急に悪魔化
無理と矛盾が発生し、一周回って笑える!


プロパガンダ大国日本が描いた虚勢・痩せ我慢・負け惜しみ

460枚以上収録、解説

・鬼畜米英漫画掲載誌リスト
・鬼畜米英漫画家人名辞典
・鬼畜米英新聞記事
・鬼畜米英アニメ   
・鬼畜米英歌謡
等のコラム 


【前書き】

日本において、漫画、まんが、マンガ、MANGA……という表記を見るとき、私たちは何を思うだろうか。恐らく最初に、そのストーリーや形式(ギャグ、恋愛、バトル、広報etc)はどうあれ、まず面白く、気負いせず、難しい学習などなしに娯楽や手っ取り早く読めるものとして認識する人が、多数を占めるはずである。漫画と表記されるそれは、例えば手塚治虫らとともに戦後にいきなり現れたものではない。歴史的に鳥獣戯画や鳥羽絵など日本において独特の発展を遂げ、また明治維新以後は海外の影響も受けながらさらに洗練され、戦前においては北沢楽天や岡本一平、近藤日出造や横山隆一らの著名漫画家の登場もありつつ発達していった。日本が戦争への道に踏み込んでいった1930年代は、同時に戦後に通ずる漫画家たちや読者が、メディアとも結びつきながら戦後につながる大衆的な漫画文化を成熟させていった時期ともいえる。しかし、漫画文化が発達していくことと、規制や統制に屈していくことは、戦前において「矛盾」しなかった。現代においてもそうかもしれないが。

一方で、1931年の満洲事変に始まり1945年の太平洋戦争敗戦に至る、いわゆる15年戦争が振り返られるとき、よく引き合いに出される言説の一つとして、「メディアに誘導された」「真実を知らされなかった」という類のものがある。筆者の前作にもあたる拙著『戦前不敬発言大全』『戦前反戦発言大全』では、特高警察の記録に残された、一筋縄ではいかない庶民の抵抗を数多く紹介したが、一方で、彼らがあくまで庶民の中の一部であることも事実であった。彼らを無視し、攻撃し、あるいは特高に密告する人々やメディアもまたいて取り囲んでいたが故に、特高警察の記録は出来上がった。ともあれ、『戦前不敬発言大全』『戦前反戦発言大全』が抵抗する人々の記録と紹介であったとして、その対極にいる、多くの「臣民」「銃後国民」が見せられ、あるいはのめり込んでいった情報やメディア、プロパガンダも存在する。そういった光景の中の一つに、漫画も現れてくる。

幕末のペリー来航以来、日本は多くの文化や学問を、米英独仏を始めとする諸外国から吸収し、交流を行ってきた。さらに、日英同盟や、ポーツマス講和会議など、外交的な便宜も享受してきたことは、歴史から消し去ることはできない。しかし、1930年代半ば以降、国際的な孤立と社会の閉塞を深める日本において、正確かつ合理的な認識が失われ、軍部に代表される権力を強く意識するようになった人々は、次々と「米英的」とされた文化を捨て、あるいは様々な形で認識を捻じ曲げていくこととなった。そしてそれらは太平洋戦争により、完全に歯止めが利かなくなっていった。

様々な人物や情景を自在に変化させることができる漫画は、戦時において、敵を表象するプロパガンダ手段としてよく使われた。太平洋戦争中、様々なメディアや街頭に、「鬼畜米英」、憎たらしくぶよぶよと描かれたアメリカのルーズベルト大統領やイギリスのチャーチルが蔓延した。わずか数年前まで多くの人々が親しんでいた米英の文化、例えば映画やアニメ、音楽などが、神がかり的な文化論とともに排斥されていく中で、漫画は「ポパイ」を敵と描くことで生き残りを図った。すべてのもの・存在が戦争に投入される総力戦において、本来他者・他文化との交流や批判的精神によって成長してきた様々な表現は、単なる攻撃と宣伝の手段としてしかみなされない。それでも、戯画や漫画といった文化が長年かけて積み上げてきた、皮肉や諧謔の文化がどれほど現れあるいは残っており、どうあれそれがどの様にメディアに現れ、何を伝えていたのか? 

昨日まで親しみ、交流していた何かが、突如否定され、貶められ、破壊される光景は、世界的にみられる光景である。しかし、その過程・光景を見極めることは中々難しい。漫画やその周辺の文化はその過程も視覚的に強く伝えてくれる。

本書では、戦前・戦中の「漫画」(グラフ誌、雑誌、書籍などに掲載された、政治的な漫画)を多く集め、日・米英関係の変化や時代の流れに沿って、背景などとともに紹介する。また、当時の社会についても俯瞰するために、日・米英関係などに関するコラム・当時の記事も収録した。

当時の漫画は、現代から見て深刻なものもあれば、今から見てもユーモアにあふれ笑えるものもあるかもしれず、あるいは戦前のバッドテイスト、「鬼畜系漫画」と指さすこともできるだろう。どのように読み取るのも読者の自由ではある。ただ、権力におもねったり、「時勢」「国民感情」あるいは「公序良俗」などといった曖昧かつ無責任な言葉に流される動きは、現代でも当然起き続けていることだけは忘れないようにしよう。これで失笑できる時代がいつまでも続くことを願いつつ。


髙井ホアン


【著者】

髙井ホアン  (タカイ ホアン) (著/文)

1994年生まれ。作家・ライター。日本人とパラグアイ人の混血(ハーフ)。埼玉学園大学卒(カリブ史を研究)。高校時代より反権力・反表現規制活動を行う中、その過程で戦前の庶民の不敬・反戦言動について知り、そのパワフルさと奥深さに痺れて収集と情報発信を開始。2013年よりTwitter上で「戦前の不敬・反戦発言Bot」「神軍平等兵 奥崎謙三Bot」などを運営中。2019年5月に『戦前不敬発言大全』『戦前反戦発言大全』(パブリブ)を出版。『現代ビジネス』『情況』など各種メディアで執筆活動を行うほか、各地でイベントやライブなどにも出演しており、反社会的アーカイバーも名乗る。趣味は読書と無計画な旅行。今後も多くの記録を掘り起こしながら、「時局」の向こうに消えていった人々の姿を掘り起こしたい

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